断腸亭料理日記2008

神楽坂・鰻・志満金

11月25日(火)夜

ポルチーニのおじや、を、書いていたら、

松茸が食べたくなったのである。

考えて、思い付いたのが、神楽坂のうなぎや、志満金。
以前にここで、土瓶蒸しを食べたことがあった。

休み明けの火曜日。
8時頃、仕事を終え、牛込市谷のオフィスを出る。

オフィスから、神楽坂まで歩く。

納戸町、牛込南町とお屋敷町を抜け、袋町。
住宅地の路地、坂を降り、クランクに曲がり、
若宮町。
ここの八幡様は今は小さいお社(やしろ)だが、
昔はもっと大きかったようである。

(江戸の頃の地図)


左に曲がり、次の路地を右。
この路地は、右にカーブし、いつのまにか神楽坂に
並行し、坂を下りる。

坂を降り、突き当りを左に曲がれば、すぐに神楽坂に出る。

オフィスからは、10分ほど。
今、歩いてきたルートは、江戸の地図を見ると、まったく
変わらずに、今でもある。

神楽坂については今までなん度か書いてもいる。

今日の地図は、市谷牛込の区分図である、切絵図の神楽坂あたり。

前にも書いたが、道に描かれている、小さな四角が
この地図にもあるが、これは辻番所。

江戸の頃の神楽坂は中小の旗本屋敷がほとんどを占めている。

また、現在、うなぎのたつみや、などがある本多横丁
地図の路地の下(西側)には、本多修理と書かれているが、
これに由来している。

(本多修理は本多修理大夫助賢かと思われる。
信濃飯山藩の第六代藩主、豊後守、幕府の若年寄も歴任している。
飯山藩の上屋敷は一橋御門外である。この地図は、安政四年の版で
同五年に没しているが、隠居後の屋敷か。)

ちょっと、横道にそれるが、今、神楽坂というと、
江戸の雰囲気を残した、というような語られ方をされていることが多い。

これは、今でも残る料亭などの神楽坂花柳界からのイメージである。
(今も芸者さんは30名程度いるとのこと。)

歴史的にいうと、神楽坂に限らないが、東京の花柳界というのは
深川が最も古く、時代として江戸の発祥といえるが、それ以外は、
ほとんどが幕末以降の成立で、実際に花柳界として栄えたのは、
大正から昭和初期、そして、戦後復興し昭和30年代までのことである。

私などは、まあ、いわゆるお座敷遊びというのは
あまり縁もない世界であるが、花柳界=江戸の雰囲気というのは、
少し違う、のであろうかと思われる。

今回も少し調べてみたのだが、江戸の頃の神楽坂のことである。

いわゆる、岡場所と呼ばれていた場所。
山手のこのあたりでは、前にも触れた市谷亀岡八幡の境内
そして、上の地図にある、神楽坂上の行願(元)寺門前にも、
通称“山ねこ”と呼ばれる岡場所があったようである。※1
(岡場所というのは、江戸では、吉原のような公許の遊郭ではなく、
いわば、もぐりの娼家、のこと。)

今もある、毘沙門様は、この北にある牛込総鎮守赤城神社とともに、
江戸の頃から栄えており、人の集まる場所で、それと不可分に
岡場所があった、ということであろう。

こうしたものが、母体になり幕末から、明治以降、形を変えつつ
三業地として制度化され、花柳界と呼ばれるものになった
のであろう。
そして、山手の花柳界として、
作家、映画監督など様々な文化人にも愛用された。
(映画にもなっている、向田邦子の「あうん」などを観ていると
高倉健と坂東英二が芸者遊びをするシーンがでてくるが、
当時の神楽坂のイメージではないかと思っている。)

まあ、歴史をきちんと見るとそういうことで、
花柳界のいわゆるお座敷遊びは、東京では、江戸時代からのものではなく、
大正昭和の花街の雰囲気を伝える、といった方が、正解なのであろう。

(これは、以前にも引いた加藤政洋著『花街・異空間の都市史』
でも指摘されている。※2)

閑話休題。

神楽坂、志満金、で、あった。

8時過ぎ、店に入ると、一階は一杯のようで、
二階に案内される。

窓側の席に座る。

もうだいぶ寒く、
薄いコートなども羽織っていたのだが、市谷からここまで、
一所懸命に歩いてくると、薄汗もにじんでくる。

であるが、やはり、気分である。
お燗でお酒を頼む。

そして、考えていた、松茸土瓶蒸し、と、うな重も頼んでしまう。
土瓶蒸しがあるので、むろん、肝吸いは、なし。

ちびり、と、呑んでいると、急いでくれたのか、
割合に、すぐに出てきた。

土瓶蒸し。


ツルのある土瓶のふた、兼、つゆを呑むためのお猪口の上に、
緑色のスダチが1/8ほどに切られて、ちょこんと載せられている。


ふたを取り、スダチを絞り入れ、つゆを一口。
香りもよいし、よい出汁、で、ある。

先の、ポルチーニのところで書いたが、
松茸は、匂い松茸、味しめじ、などというが、
やはり、香り、で、ある。

よい香りなのだが、ポルチーニと比べると、
刺激的な香りというのか、音楽でいえば、高音というのであろうか、
ちと、妙ないい方であるが、そんな感じがする。
ポルチーニなどの方は、高音部もありながら、ボディーのような
低い部分もある。松茸は甲高い、目から鼻に抜ける香。

松茸を食べてみる。

味しめじ、と、いうくらいで、香と比べると、味は今一つ。
鋭い香りはあるが、ボディーがない、というのであろうか、、。
しかし、これも、こうした土瓶蒸しでつゆやらに
香りを移すのではなく、採れ立てを炙っただけで、
しょうゆをさっとつけて、食べる、のが香りだけでなく、
味もよく感じられ、最高なのであろう。

ポルチーニにしても、松茸にしても、その他、
椎茸、しめじ、最近の舞茸、、などなど、
きのこにも色々なものがあるが、おもしろいものである。

つゆの中には、鱧の焼いたものなども入っており、つまんで食べる。

と、すぐに、お重もきた。
お重のふたを開け、山椒をふる。


こう、大立者が二つ揃うと、そうとうなもので、
ビクともしない。どうだい!、っ、てなもの、で、あろう。
贅沢、で、ある。

呑みながら、蒲焼もつまみ、土瓶蒸しのつゆも飲み、
松茸も、つまむ。

むろん、蒲焼もうまい。

酒を呑み終え、うな重は、掻っ込む。

煎茶が運ばれ、これで、一息。

しばらくすると、ここは、いつも、抹茶が出される。


私のような、がさつ者には、まったくもって、ここで出されなければ
縁のないもの、で、ある。

うまかった、うまかった。

階下で、勘定をして、出る。




ぐるなび






断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月




BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2008